人生は朝露の如し

第一章

人生じんせいは朝露あさつゆの如ごとし

ー人生如朝露ー　　　漢書 蘇武伝
（漢書：百二十巻。前漢の歴史を記録した正史。
後漢の班彪と、その子班固、班昭の撰。）

『漢書』巻54「李広蘇建伝」その中の（蘇武伝）からの出典です。
人生の短く儚はかないことを嘆なげいた言葉。

漢の時代、匈奴きょうどに使者として出向いた蘇武そぶはそのまま捕らえられて北海の地に流される。
蘇武は野鼠のねずみや草・実を食糧しょくりょうとして飢うえをしのいでいた。しかし、漢の節を守り匈奴に降くだらなかった。そこで匈奴に降った李陵りりょうという将軍を遣つかわして、匈奴への帰順きじゅんを勧めたとき、このことばが引用されている。

｛原文｝
人生如朝露，
何久自苦如此！

｛書き下し文｝
人生じんせいは朝露あさつゆの如ごとし、
何なんぞ久ひさしく自ら苦しむこと此かくの如ごときと！

｛口語訳｝
人の一生は、朝露のようにはかないものなのに、
どうして、このように長く、自分から苦労するのですか！

　タイトルからはずれると思われるが、意気に感じたので、
以降の漢文も載せておきます。

｛原文｝
武曰　「武父子亡功德　皆爲陛下所成就　
位列將　爵通侯。兄弟親近、常願肝腦塗地。　
今得殺身自效、雖蒙斧鉞湯鑊、　誠甘樂之。
臣事君　猶子事父也　
子爲父死亡所恨　願勿復再言。」　
陵與武飲數日　復曰　「子卿壹聽陵言」　
武曰　「自分已死久矣　王必欲降武　
請畢今日之驩　效死於前」　
陵見其至誠、喟然歎曰、　
「嗟乎　義士　陵與衛律之罪上通於天」　
因泣下霑衿　與武決去。

｛書き下し文｝
武（蘇武）の曰く、「武の父子は功德亡くどくなく、みな陛下の成就じょうじゅする所と爲なし、
位は列將、爵は通侯。兄弟親近して、常に肝腦かんのうし地に塗まみれるを願う。
今身を殺し自ら效つくすを得れば、斧鉞ふえつ・湯鑊とうかくを蒙こうむると雖いえども、誠にこれを甘樂かんらくせん。
臣の君に事つかうること、なお子の父に事えるがごときなり。
子は父の爲ために死して恨うらむ所亡ところなし。願わくはまた再び言う勿なかれ」と。
陵（李陵）は武と飲むこと數日。また曰く、「子卿は壹いちに陵の言うを聽きたまえ」と。　
武の曰く、「自分は已に死して久し。王、必ず武の降るを欲すれば、
今日の驩かんを畢おわり、前に死を效いたすを請こわん」と。　
陵はその至誠しせいを見て、喟然きぜんとして歎なげきて曰く、
「嗟乎ああ、義士ぎしなり。陵と衛律えいりつの罪は、上、天に通ず」と。
因よりて泣なみだ下り衿えりを霑うるおし、武と決して去りたり。

人生は朝露の如し

｛意解｝

人生は儚く短いことを嘆いたことばである。

同じように「三国志｜曹操の短歌行」に

｛原文｝　　　　　　　　　　　｛書き下し文｝
対酒当歌　人生幾何 　　酒さけに対たいしては当まさに歌うたうべし　人生じんせい　幾何いくばくぞ
譬如朝露　去日苦多 　　譬たとえば朝ちょう露ろの如ごとし　去日きょじつ　苦はなはだ多おおし
慨当以慷　幽思難忘 　　慨がいして当まさに以もって慷こうすべし　憂ゆう思し忘わすれ難がたし
何以解憂　唯有杜康 　　何なにを以もってか憂うれいを解とかん　唯ただ杜と康こう有あるのみ
青青子衿　悠悠我心 　　青青せいせいたる子きみが衿えり　悠悠ゆうゆうたる我わが心こころ
但為君故　沈吟至今 　　但ただ君きみが為ための故ゆえに　沈吟ちんぎんして今いまに至いたる
呦呦鹿鳴　食野之苹 　　呦呦ゆうゆうとして鹿しか鳴なき　野のの苹よもぎを食くらう
我有嘉賓　鼓瑟吹笙 　　我われに嘉か賓ひん有あり　瑟しつを鼓こし笙しょうを吹ふかん
明明如月　何時可採 　　明明めいめいとして月つきの如ごとし　何いずれの時ときにか掇とる可べけん
憂従中來　不可断絶 　　憂うれいは中うちより来きたりて　断絶だんぜつす可べからず
越陌度阡　枉用相存 　　陌はくを越こえ阡せんを度わたり　枉まげて用もって相あい存そんす
契闊談讌　心念旧恩 　　契闊けっかつ　談讌だんえんして　心こころに旧きゅう恩おんを念おもう
月明星稀　烏鵲南飛 　　月つき明あきらかに星ほし稀まれにして　烏鵲うじゃくは南へ飛ぶ
繞樹三匝　何枝可依 　　樹きを繞めぐること三匝さんそう　何いずれの枝えだにか依よる可べき
山不厭高　海不厭深 　　山やまは高たかきを厭いとわず　海うみは深ふかきを厭いとわず
周公吐哺　天下帰心 　　周しゅう公こう　哺ほを吐はきて　天てん下か心こころを帰きす

と詠っている。短い人生、もっと楽な生き方をしてはどうかとすすめている。

荘子 知北遊篇にも「人生は白駒の隙を過ぐるが如し」とある。人が天地の間に生きているのは、ちようど白馬が走り去るのを戸の隙間からのぞき見るようなもので、ほんの一瞬のことに過ぎない、という意味である。天地は永遠であるが、人生は二度と戻らない。人の人生はせいぜい百年、あっという間に過ぎ去ってしまう。幸いこの世に生まれたからには、楽しく生きたいと願うばかりでなく、無駄に過ごすことへの恐れをもたなければならない。と（菜根譚）は語る。

織田信長が好んで舞った「敦盛あつもり」を思い出される

幸若舞　敦盛

＊参考資料：「中国古典一日一言」守屋洋(著)をもとに、
自分なりに追記や解釈して掲載しています。

私たちは、日々、何をするにしても
大なり小なり、決断（選択）をしている
その折々に思い出し、
より善い選択（決断）ができるように
貴方も私も　在りたいですね。