第四章 着実に生きる
人はその長ずる所に死せざるは寡し
ー人者、寡不死其所長ー 墨子 親士
(墨子:十五巻。墨擢とその学派の学説を記したもの。墨擢の撰といわれているが、その門人の撰であると現在では考えられている。)
{原文}
今有五錐、此其銛、銛者必先挫。
有五刀,此其錯,錯者必先靡。
是以甘井先竭、招木先伐、
霊亀先灼、神蛇先暴。
是故比干之殪、其抗也。
猛賁之殺、其勇也。
西施之沈、其美也。
呉起之裂、其事也。
故彼人者、寡不死其所長。
故曰、太盛難守也。
{書き下し文}
今、五錐は有り、此れ其は銛なり、銛なるものは必ず先より挫す。
五刀は有り、此れ其は錯なり、錯なるものは必ず先く靡す。
是を以って甘井は近づ竭き、招木は近づ伐られ、
靈龜は近づ灼かれ、神蛇は近づ暴さる。
是の故に比干の殪されしは、其の抗すればなり。
孟賁の殺されしは、其の勇あればなり。
西施の沈められしは、其の美なればなり。
呉起の裂かれしは、其の事あればなり。
故に彼の人は、其の長する所に死せざること寡し、
故に曰く、太盛は守り難しと。
{意解}
人間はその長所が災いして、かえって死を早めることが多いのだという。
これもまた一面の真理である。
ここに五本の錐が在るとして、一番最初に挫けてしまうのは一番鋭利なものである。
五本の刀では切っ先の鋭いものが先に磨れてしまう。
おいしい水が湧く井戸が先に尽きてしまい、立派な木は先に切り倒され、
霊亀は先に焼かれ、神蛇は先に暴かれてしまう。
これは丁度、比干が紂王に殺されたのは、不義に抗して義を貫こうとしたからだ。
猛賁はその武勇によって殺され、
西施はその美しさのあまり河に沈められ、
呉起はその手腕を疎まれて車裂の刑を受けたことと同じである。
人間は、その長所がわざわいして、かえって死を早めることが多い。
故に、大いに盛んなるものを守るのは難しいと言う。
能力に恵まれたからといって、
必ずしも喜んでばかりはいられないということかもしれない。
宋名臣言行録 前集巻七に「韜晦して圭角を露すなかれ」とある。
下手に才能をひけらかせば、上司に嫌われるばかりか、
無用の禍を招くのがオチであろう。それ故に、
なるべく控え目に振る舞うが善いと言っている。
参考資料:墨家十論 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
墨子 巻一 親士(原文・読み下し・現代語訳)
*「兼愛」:すべての人を公平に分け隔て無く愛する。
*「非攻」:侵略目的の争いを否定する。
*「尚賢」:貴賤を問わず、能力のある人物を登用する。
*「尚同」:正しい目的・考え方にすべての人々・社会が従うことで、
価値基準を一つにして社会秩序守られ、社会が繁栄する。
*「節用」:無駄な出費を抑え、節約する。
*「節葬」:葬礼を簡素にし、葬祭・祭礼にかかる浪費を防ぐ。
*「非命」:宿命論を否定する。人は努力して働くことで、
自分や社会の運命を変えることができる。
*「非楽」:人々を悦楽にふけらせ、労働から遠ざけるような過剰な娯楽を否定する。
*「天志」:天の意思は人々が正しいことを当たり前におこなうことであり
憎しみ合いや争いはやめなければならない。
*「明鬼」:人々の善悪の行いを監視して賞罰を与える鬼神が存在し、
争いなどの悪い行いは罰せられる。
*参考資料:「中国古典一日一言」守屋洋(著)をもとに、
自分なりに追記や解釈して掲載しています。
私たちは、日々、何をするにしても
大なり小なり、決断(選択)をしている
その折々に思い出し、
より善い選択(決断)ができるように
貴方も私も 在りたいですね。